認知症とは、一度正常に発達した認知機能が、脳の病気や外傷など何らかの障害によって、脳の細胞が死滅したり、働きが悪化したりし、その知能が持続的に低下することで、日常生活に支障をきたすようになる病気です。最大の危険因子は「加齢」で、日本では65歳以上の高齢者の約15%にあたる約460万人が認知症を患っているとされ、2025年にはそれが約20%に上昇すると言われています。
認知症の症状を呈する病気の中には、治療できるものもありますので、認知症が疑われる症状に気づきましたら、なるべく早めにご受診いただき、治療を開始することをお勧めします。
認知症が疑われるサインとしては、以下のような症状があります。
- もの忘れが多くなる(記憶障害)
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- 少し前のことをすぐに忘れてしまう。
- 同じことを何度も言ったり聞いてきたりする。
- 物を置き忘れたり、どこにしまったかわからなくなったりし、いつも何か探している。
- 約束したことを忘れる。
- 人や物の名前がなかなか出てこない。
- 冷蔵庫にある食材なのに、また同じものを買ってきたりする。
- 時間や場所がわからなくなる(見当識障害)
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- 今日が何月何日で何曜日かわからなくなる。
- いつも通っている道なのに迷うようになる。
- 出来事の前後関係がわからなくなる
- 理解や判断の能力が低下する
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- 役所での手続きや銀行での引き下ろしなどができなくなる。
- テレビを見ていて内容が理解できなくなる。
- 車の運転などでミスが多くなる。
- 仕事や趣味、家事や身の回りのことができなくなる
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- 仕事や趣味などの段取りが悪くなり、時間がかかるようになる。
- 料理の味付けがおかしくなったり、掃除や洗濯などの家事がうまくこなせなくなる。
- 身だしなみにかまわなくなったり、洗面や入浴がうまくできなくなる。
- 食べこぼしが多くなる。
- 失禁することが多くなる。
以上は中核症状と呼ばれるものですが、他に周辺症状(行動・心理症状)として、抑うつや怒りっぽくなる、幻視や妄想が起こるなどの症状が見られる場合もあります。
認知症の種類としては大きく分けて、「変性性認知症」と「脳血管性認知症」の二つがあります。「変性性認知症」には代表的なものとしてアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症などがあります。
- アルツハイマー型認知症
- 認知症の約半分の方は、アルツハイマー型認知症と言われています。特徴としては、記憶障害の症状があります。初期においては、最近の記憶に障害が起こる傾向があり、ちょっと前に聞いたことや、物をおいた場所などを忘れてしまうことがよくみられるようになります。原因としては、脳にアミロイドβタンパク質やタウタンパク質と呼ばれる特殊なタンパク質が溜まり、神経細胞が破壊されていくことによると考えられています。発症すると、次第に脳全体が萎縮していき、それにより認知機能障害に加えて、身体機能の喪失も現れます。
- レビー小体型認知症
- アルツハイマー型認知症に比べ、レビー小体型認知症では認知機能の低下は軽い傾向にあると言われています。一方でレビー小体型認知症ては「幻視(実際にはないものが見える)」が特徴的な症状としてあります。さらにパーキンソン病との共通点も多く、手足が震えたり、歩幅が小刻みになって転びやすくなったりといったの症状も現れます。脳内にレビー小体という変性細胞が現れることで発症するもので、レビー体も異常なたんぱく質からなるものです。
- 脳血管性認知症
- アルツハイマー型に次いで多い認知症で、脳梗塞や脳出血などの脳血管の異常によって発症します。症状は、出血や梗塞によって障害された脳の部位により異なります。ダメージを受けている部分と受けていない部分が存在するため、保たれている認知機能と、低下した認知機能が存在する「まだら認知症」という状態になることもあります。また症状がゆっくり進行していると思えば、突然、急速に進行するという「階段状の進行」も特徴です。この脳血管性認知症にアルツハイマー型認知症が合併している場合もあります。
認知症の治療では薬物療法により根本的に治療することは難しいため、中核症状に対しては、進行を遅らせることを目的として薬の使用をしていきます。具体的には、アルツハイマー型認知症に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬(塩酸ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)、およびNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)に改善効果が認められており、レビー小体型認知症では、塩酸ドネペジルが保険適応の治療薬となっています。脳血管性認知症の進行抑制に効果がある薬剤は今のところありませんが、脳卒中の再発予防のために高血圧などの生活習慣病の治療が必要となります。
また認知症による周辺症状を抑える治療として、抗精神病薬やSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬、抗不安薬等による薬物療法があります。
こうした薬物療法は効果が限定的な部分もあり、進行を抑制するためには、日常生活(食事や運動、入浴など)を、可能な限り自力で行い、認知機能を維持していくことが大切になります。そのためにはケアやリハビリの体制を整えることも重要です。
認知機能の維持や改善のために、様々な訓練法やリハビリテーションがあります。たとえぱ「回想法」では、昔の思い出や自慢話を語ることで、自尊心やコミュニケーション力の回復を目指します。また「芸術療法」として、音楽や絵画、書道などを通じ、日常生活動作の維持向上や表現の喜び、達成感を感じてもらうことを目指します。
また、「リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練)」と呼ばれる、自分と自分のいる環境を正しく理解する訓練や、ウォーキングなどの有酸素運動による「運動療法」も有効です。そのほか家庭にあっても、洗濯物をたたむなどの比較的安全で簡単な作業を任せるなど、役割分担を設けることにより、積極的に人とのつながりに関わって生活できる環境を整えることも大切です。