人には元来、命を脅かすような大きな災害や事故、凶暴な敵に遭遇したときなどに、激しい動悸や発汗、頻脈、大声で叫びたくなるなどの反応が起こるようになっています。これはその危機から逃れるために、体に備わった機能の一種です。パニック障害ではこうした反応(発作)が、何事もない時に、突然起こってしまうものです。パニック障害では他に、震えやしびれ、息苦しさ、胸部不快感、冷や汗、めまいといった発作が現れ。実際に命の危険を感じてしまう場合もあります。
パニック障害と認識されていない初期の段階の場合、発作を起こして救急車で運ばれることもあります。心筋梗塞などによく似た症状のため診察されますが、循環器や呼吸器を診断しても身体的な異常は見られません。こうした発作が繰り返されますので、周囲から「またか」と思われてしまう場合もあります。パニック障害は、周囲の理解が必要となる病気ですが、およそ100人に3人程度の比率で罹るという、だれにでも発症する可能性があると言えるでしょう。
パニック障害では、こうした「パニック発作」の他に、「予期不安」と「広場恐怖」という形でも症状があらわれます。
「予期不安」はまた突然、パニック発作のような症状が起こるのではないか、そしてその発作が心臓発作など、命に関わるものにつながってしまうのではないか、というように、まだ起こっていないことに関し、強い不安や恐怖を抱くものです。
「広場恐怖」というと、人が集まるような広い場所に対するものをイメージしますが、実際には「そこから逃げ出せない」「そこで何かあっても誰にも助けてもらえない」「恥をかいてしまう」という場所への不安や恐怖を指しています。そんな場所は人それぞれで、電車の中や高速道路、橋の上、行列に並んでいる時、あるいは美容院などに恐怖を感じる場合もあります。
パニック障害になると、こうした不安から、一人で外出できなくなり、日常生活や仕事などにも影響が出てきてしまい、会社を辞めたり、ひきこもりになったりということもありますので、治療が必要な病気と言えるでしょう。
パニック障害は、脳内の神経伝達物質のうち、特に「セロトニン」と「ノルアドレナリン」が関わっていると考えられています。ほかの脳内神経伝達物質の情報をコントロールし、精神状態を安定させる働きがある「セロトニン」と、不安や恐怖感を引き起こし、血圧や心拍数を上げる働きをする「ノルアドレナリン」のバランスが崩れることで、パニック障害が発症するとみられています。
パニック障害では、これらの神経伝達部室のバランスを整えるための薬物治療が症状の改善に有効です。薬剤としては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)があります。これはセロトニンの働きを増強するもので、不安感や意欲の低下を防ぎ、パニック障害を改善します。依存性や副作用も少ないもので、適切な量を適切な期間、処方していきます。他にも抗不安薬を用いる場合もあります。こちらは即効性はありますが、依存性がややあるため、使用する場合は慎重に行っていきます。
さらに認知行動療法や、曝露療法と呼ばれる精神療法的な治療も効果的であると言われています。これは苦手なことに積極的にさらされる(曝露する)ことで、徐々に症状を改善していくものです。薬により発作が起こらなくなったら、外出など、あえて苦手なものに挑戦することで治療につなげていきます。その際は無理をしないよう、医師と相談しながら進めることが重要です。当院ではひとりひとりの患者様の状況を慎重に診療しつつ、治療を進めていきます。