統合失調症

脳には様々な機能があり、それらが複雑に関係しあって働いています。統合失調症では、それらの機能や働きをまとめることが難しくなってしまう病気です。特徴的な症状としては、幻覚や妄想などがありますが、それ以外にも様々な障害が現れ、気分や行動、人間関係が上手くコントロールできず、影響が生じます。他の慢性疾患と同じように、長期にわたって症状が続きますが、新しい薬や治療法も開発されつつあり、長期的な回復も期待できるようになってきました。

統合失調症の原因は、まだわかっていない部分も多くありますが、脳の神経系に異常が生じる脳の機能障害とみられており、様々なきっかけで、神経伝達物質であるドパミンの機能異常をきたすことによって発症すると考えられています。

遺伝的要因(ただし発症を高める特定の遺伝子は知られていません)が強いと言われ、さらに思春期から青年期にかけてのストレス(仕事や人間関係における問題、就職や結婚など人生の転機で感じる緊張等)が、きっかけになるとも考えられています。日本での統合失調症の患者数は約80万人とされ、生涯のうちに統合失調症にかかるのは人口の100人に1人弱と、決して少なくない数字で、10歳代後半から30歳代の発症が多くなっています。

また統合失調症は、1つの病気ではなく、似た症状や経過をたどる、さまざまな精神疾患が集まって起こる症候群だと考えられており、そのため連続した統合失調症スペクトラムと捉える場合もあります。代表的な症状には「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害(軽度)」などがあります。

陽性症状とは

健康な時には現れないものが現れる状態です。神経伝達物質であるドパミンが、部分的に過剰になることにより、神経の活動が過敏になって幻覚や妄想など、下記のように症状が現れます。

  • 幻聴…聞こえない声が聞こえてしまう
  • 幻視…見えないものが見えてしまう
  • 幻嗅(臭)…匂わないものが匂ってしまう
  • 妄想…間違ったことを信じ込む
  • 自我障害…自分と他人の境界があいまいになり、自分で考えているという認識が崩れ、他人に操られていると感じたり、自分の考えが他人に知れ渡っていると錯覚したり、自分の中に他人の考えが入り込んでくると感じてしまう

陰性症状とは

健康な時にあるべきものが現れない状態です。ドパミンによる神経の伝達機能が、部分的に低下してしまうことにより、心の動きや感情表現が乏しくなるなど、下記のような症状が現れます。

  • 感情の平板化…表情の変化が減り、言葉や身振りの抑揚が低下する、視線を合わせられない、など
  • 意欲の低下…服装や化粧、身だしなみへの関心が低下する、勉強や仕事、社会的活動へのやる気が失われる、など
  • 思考の貧困…会話の中で比喩や抽象的な表現が使えず、また理解できない、など
  • ひきこもり…自分の世界に閉じこもってしまい、他者とのコミュニケーションを行わなくなる

認知機能の低下(軽度)とは

様々な認知機能に、軽度の低下が見られるようになります。下記のように症状のほか、いろいろなことを一度に話されると理解できない(数人で話していると雑音のようになり聞き取れなくなる)、大事な場面で緊張して失敗する、というようなこともあります。

  • 記憶力の低下…物事を覚えるのに時間がかかるようになる。
  • 注意・集中力の低下…目の前の仕事や勉強に集中したり、考えをまとめたりすることが難しくなる。
  • 判断力の低下…物事に優先順位をつけて判断したり、計画を立てたりすることが難しくなる。

統合失調症は、当初(急性期)には、「陽性症状」が目立ちますが、だんだんと「陰性症状」が目立ってきて(回復期)、安定・慢性期に至ります。この間、数年から数十年続く場合もありますが、糖尿病や高血圧などの生活習慣病同様、長期的に適切に薬を用いることにより、症状をコントロールできるようになってきています。統合失調症は、本人はもちろん、周囲にも影響を及ぼす可能性がある病気です。早期に発見し、治療を開始することが重要です。ただし本人は気づきにくいため、周囲が見つけてあげることが重要です。

早く治療を始めるほど、回復が早いともいわれていますので、以下のような様子が見られたら、お早めご相談ください。

  • いつも緊張し、また不安そうにしている
  • 感情の動きが少なくなる
  • 他人の感情や表情についての理解が苦手になる
  • 誰かに悪口をいわれた、いじめを受けたと訴えるが、現実には何も起きていない
  • 監視されたり盗聴されたりしていると言うが、調べてもそんな事実はない
  • どこからか自分に命令する声が聞こえると言う
  • ときどき独り言いったりにやにやしたりしている
  • 日常生活における理解力や記憶力が低下しているようだ
  • 自分で問題の解決ができない
  • 作業のミスが多い
  • 打ち込んできた趣味、楽しみにしていたことに興味を示さなくなった
  • 人づきあいを避けて、引きこもるようになった
  • 何もせずに一日中ゴロゴロしている
  • 身なりにまったくかまわなくなり、入浴もしない

治療では主に、薬物療法と心理社会的療法を組み合わせて行い、症状の改善を図ります。

薬物治療で使われる薬は、ドパミンやセロトニンといった神経伝達物質の働きを調節する「抗精神病薬」「神経遮断薬」と言われるもので、幻覚や妄想などの陽性症状および、意欲低下などの陰性症状、さらに不安、不眠、興奮などの改善に作用するものです。抗精神病薬には様々な種類があり、従来の「定型抗精神病薬」と、近年用いられ始めた「非定型抗精神病薬」があります。これは脳での神経伝達物質への作用の仕方に違いがあり、後者は前者の副作用(パーキンソン症候群等を起こしやすい)の軽減を目指して開発されたものです。また非定型抗精神病薬は認知機能を改善する薬としても期待されています。

心理社会的療法(精神科リハビリテーション)は、急性期後の慢性期における社会復帰のため、集団行動に慣れるための訓練や、就業のための訓練などを行います。患者さんの中には「自分は病気ではない」ということを、強く思っている場合も少なくありません。治療の第一歩として、まず患者さん自身に自分の病気について、また治療の必要性のことについてよく理解していただくための「疾病教育」も重要になります。

統合失調症で大切なのは、治療によって症状を和らげつつ、患者様本人がこういう生活をしたいという希望や目標をもって、それを周囲が支えていくことです。症状と上手に付き合いながら、学んだり、働いたり、結婚して子育てをしている人もいます。当院では治療を通じて、患者様およびご家族様をサポートしていきます。