不登校

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不登校は、実は児童精神科の分野で、一番多い相談です。なぜ不登校になったのか、理由が分かっていることもありますが、多くの場合、保護者の方などまわりにはわからず、また本人にもわかっていないことが多々あります。関係する人たちみんなで考え、会話を通してカウンセリングしていくことが大切になります。

ちなみに不登校は、「心理的・情緒的・身体的・あるいは社会的な要因、背景により登校しない、またはしたくてもできないため、年間30日以上欠席したもののうち、経済的な理由や病気によるものを除いたもの」と定義されています。不登校が続き、そのまま成人し、「ひきこもり」となる場合もあります。こころの問題も体の問題と同じで、早期の治療が大切ですので、早めにご相談ください。

こどもの不登校では、朝、学校に行こうとすると、頭痛や腹痛、下痢、吐き気などの症状を見せ、家族が説得しても学校に行きたがらない、という状態になります。不登校が続くと、不安感が高まり、本人の中でも葛藤が生まれ、不安定な状態になります。すると、攻撃的・反抗的な言動をとったり、孤立して閉じこもってしまったり、会話が上手くできなくなっていきます。さらに二次的には、不安障害・強迫障害・パニック障害・転換性障害などを引き起こすこともあります。

こどもが不登校になると、保護者の方が不安になることは当たり前です。しかし焦って、何とか説得して学校に行かせようとすることは逆効果です。なにより、こども自身が焦りや罪悪感を持っていて、悩んでいます。まずは焦らず、見守っていくことが大切でしょう。

学校に行くことができないときは、学校に行くことを目標とするのではなく、まず自宅で安心してストレスを感じず、元気に過ごすことを目指しましょう。今後、社会に出ていくための充電期間と捉え、家族とのコミュニケーションの場を少しずつ増やすことが大切です。またスマホやゲームなどで昼夜逆転してしまいがちな生活リズムも、正しく整えることが重要です。

同時に、学校の先生とは連絡を取り、情報共有をしておくことも大切です。学校の予定などを把握し、担任の先生やスクールカウンセラーとも相談し、本人が登校しやすくなるような環境の用意も進めていきましょう。いじめなどの友人関係、勉強についていけない、学校の雰囲気になじめない、などがあれば環境を調整したり、時には環境を変えることも必要となります。

また、不登校のこどもにたいして、保護者が不安になる場合もあるでしょう。あるいは家庭での関係が、不登校の原因となっている場合もあります。当院ではお子様だけでなく、保護者の方も含めたカウンセリングを行っていきます。

また、可能性のひとつとして、発達障害などの精神疾患によってコミュニケーションがうまく取れないことが、不登校の原因となっていることも考慮し、病気の面からの可能性も考えていきます。疾患の治療によって、改善されることもありますので、まずは一度、ご相談ください。

→参考 発達障害

引きこもり

ひきこもりは人口の1~3%で生じるものと言われています。ひきこもりが開始する年齢の平均は10代後半で、中学校以前に始まるものも、2~3割あるとされています。またひきこもりのパターンのひとつとして、不登校からひきこもりに至るケースがあり、学校関連の要因から、長期にわたってひきこもることも少なくありません。

ひきこもりは簡単に言ってしまうと、学校、アルバイト、仕事などの外部との交流を避け、原則的には6ヶ月以上にわたって家庭にとどまり続けている状態のことを指しています。 深夜のコンビニ等での買い物やドライブなど、他人と直接的な交流を持たない外出は可能な場合もあります。

その原因は人それぞれで多彩であり、また一つの原因で起こっているわけではありません。なにかきっかけはあったかもしれませんが、元となる原因は他にあることが考えられます。背景要因としては、ストレスや環境の変化などの他、精神疾患の可能性も指摘されています。

同じように引きこもりのきっかけとなるようなストレスがあったとしても、上手に対処して、ひきこもりに至らない人もいます。例えばもともと内気な性格であったところに、幼少期に親の過干渉があり、自分自身でストレスに対処した経験が少ないため、きっかけとなったストレスにより、心のバランスがくずれ、ひきこもりに至るということも考えられます。

基本的にひきこもりは、精神疾患を原因としないものとされていますが(「社会的ひきこもり」と言われることもあります)、まだ診断が確定していない段階の統合失調症などの精神疾患が関連している可能性もあると考えられています。

  • 適応障害
  • 不安障害
  • 気分障害
  • 強迫性障害
  • パーソナリティ障害・統合失調症
  • 広汎性発達障害
  • 注意欠陥・多動性障害 など

この他、うつ病などの症状も考えられますが、これらの疾患は、ひきこもりの背景要因として考えられる他、ひきこもりのなかで、本人に様々な葛藤などの強いストレスがかかることにより、二次的に生じてしまうこともあります。

こうした精神障害がある場合、対人関係が苦手だったり、自己愛が強かったり、完璧主義だったり、あるいは自分はだめだという自尊心が低かったりします。一方、社会に目を向けると、ネットなどで様々な情報があふれ、強く格差を感じたり、不寛容さの中で自分が傷つけられないかと不安を感じたりする場面も多くなっています。通常乗り越えられるものが、精神的な特性と社会的な背景があいまって、克服できず、ひきこもりに至ってしまう場合があるのです。

当院では、お子様のこころの問題と、お子様を取り巻く環境について、保護者の方、またお子様本人とご相談しつつ、カウンセリングを通じて、精神的な疾患がうかがえる場合は治療を行い、また関係する機関などと連携を取り、環境面など困難な部分への支援につなげていきます。

不登校と同様、早期の対応が大切ですが、本人の名から激しい葛藤かあることも同様ですので、周囲が焦らないことも重要です。ご家族とともに、社会復帰し、自立できる方策を一緒に考え、サポートしていきます。

リストカット

ご家族としては、家庭だけで抱え込まず、スクールカウンセラーや教育相談所に相談したり、もちろん医療機関にもご相談いただくなどして、サポートやアドバイスを受けられるのがよいでしょう。

最初のリストカットは思春期の入り口である12~13歳の時に行われることが多く、そのほとんどが実は一人で行われ、誰にも話していないのです。つまり、周囲へのアピールのために行っている行為ではないこともあり、子供の自傷行為(リストカット)に、大人が気付いてあげられていないというのが実情です。

このような子供たちのリストカットの背景には、家族の問題など、大人が関わっていることも少なくありません。様々なことで悩み、イライラし、ネガティブな感情になっても、それを誰にも相談できず、自分でその感情を何とかしようとした結果、リストカットに至ってしまうと考えられます。

一方でリストカットには、その根底には、自分の苦しい状況やつらさをわかってほしいという願いもあります。でも言えないため、自傷行為に走ってしまいます。まず大人たちは、こどもが一人で問題を抱え、解決していくことは困難であることを十分に理解し、接していくことが大切になります。

こどもがリストカットをしてしまったのを知った時、大変ショックかもしれませんが、性急に、「なぜ」「どうして」と言葉で説明を求めることは避けましょう。また、気を引くためにやったのでは、と決めつけることも良くありません。一方、「負けてはだめ」「がんばれ」と強く励ますことも逆効果です。さらに見て見ぬふりをするという無関心を装うことは、事態を悪化させてしまいます。

大切なのはこどものつらい気持ちを受け止めること、「つらいんだね」と、それを言葉にして伝えることです。そして孤独を感じさせないように、寄り添って、穏やかに、静かに接しながら、つらい気持ちを、「うまく言葉で表せなくてもいいから、教えてほしい」ということを伝えていきましょう。

リストカットは実際に自殺に至ることはないという考え方もありますが、「死にたい」という気持ちからリストカットを試みるこどももいます。リストカットを経験したこどもが自殺するリスクは、格段に高くなると言われています。またリストカットは一時的にせよ気持ちがすっきりとし、つらさを緩和できることもあり、依存性があってエスカレートしやすいことがわかっています。さらに摂食障害や薬物依存など、他の自傷行為につながる危険性もあります。

ご家族としては、家庭だけで抱え込まず、スクールカウンセラーや教育相談所に相談したり、もちろん医療機関にもご相談いただくなどして、サポートやアドバイスを受けられるのがよいでしょう。

ゲーム障害(ゲーム依存)

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インターネットのゲームなどにのめり込んでしまい、日常生活に支障をきたす症状について、2018年、WHOが「ゲーム障害」として、治療が必要な疾患と定めました。定義としては、「ゲームの使用をコントロールできない」、「生活の関心事や日常生活より、ゲームを優先する」、「問題が起きてもゲームを続ける」などの状況が12か月間以上続くこと、となっています。

国内においても、93万人にのぼる中学・高校生にインターネット依存の疑いがあるとされ、この5年で約2倍に増加しています。こどもたちの間にスマートフォンの普及が急速に進んでおり、さらに、新型コロナウイルスにより長期化する外出自粛の影響があることも、増加の一因と考えられます。

ゲームに依存するようになると、学校に遅刻するようになったり、欠席するようになったりし、成績も低下、不登校やひきこもりの状態になってしまう可能性もあります。また、親や兄弟とのトラブル、さらには家庭内での暴力や暴言なども見られるようになることもあります。部屋に閉じこもり、座ってゲームを昼夜にわたって続けるため、肥満、あるいは栄養不足、エコノミークラス症候群になった事例もあります。

そしてゲームができない状況になるといらいらし、抑うつ的な気分になったり、緊張状態が続いたりといった精神状態になるなどの障害が現れます。ゲーム依存は他のアルコール依存などと同様に、ひとつの精神疾患であると言えます。

ゲームを長時間にわたって続けていると、脳に変化が起こると言われています。理性を司る前頭前野の働きが鈍くなり、本能や感情を司る大脳近辺系の働きが優位になり、その結果、理性よりも本能や感情が勝り、本来すべきことを放置し、ゲームに没頭するようになってしまうというのです。

依存による障害は、多くは本人が自分の問題であることを認めず、病気であるとの自覚がないため、なかなか改善しようという方向に向かわず、周囲ともトラブルになって本人も苦しむ場合があります。また、もともと学校などのコミュニティになじめないことによる孤独感や、自分に自信が持てない焦りや不安から、ゲームなどに逃げたり、頼ったりするようになってしまい、依存症に至ってしまうこともあります。

一方、ゲームの方にも、子供を引き付けてしまう要素があります。たとえばオンラインゲームは、世界中のどこにていても、世界中の誰とでもゲーム仲間になって対戦などを楽しむことができます。また仲間となって、新しい形のコミュニティをつくることも可能です。こうしたことは、プラスの側面もあります。ゲーム依存所の改善にあたっては、ゲームを完全に否定するのではなく、上手に使う、ということを子供とともに学んでいくことが、非常に重要になります。

ゲーム依存の予防としては、まず、家庭内でコミュニケーションを豊かにし、親自身もゲームについて知識をもち、親子でゲーム依存について、正しい知識を一緒に学んでいくということが重要です。そうすることで、こども自身もゲーム依存になりたくないと思い、自らの行動を振り返るようになります。また信頼関係を築きつつ、ゲーム以外の一緒に楽しめる趣味を持つなども大切です。

次に、ゲームに関して、1日〇時間、夜00時まで、というように、家庭内でルールを作っていくことが大切です。ルールを決める際は、親が一方的に決めるのではなく、子供と一緒に決めていくことが重要です。その際、なぜ、そのようなルールが必要なのかを、こども自身が考えるようにするのがポイントです。ルールを決めたら親子で守っていくようにし、守れなかったときはどうするか、ということも決めておくと良いでしょう。

さらにスマホやタブレットなどのデジタル端末の制限機能も活用しましょう。こどもが使うスマホを購入する際には、フィルタリング機能(こどもに有害と思われるページをブロックする)をかけることは必須です。またネットへのアクセス時間を制限するタイマー機能や、保護者がスマホの機能を制限できるペアレンタルコントロールなどの機能も活用するようにしましょう。

当院での治療としては、まず問診を行い、日常の行動などを伺って、治療方針を立てていきます。その上でカウンセリング等により、本人がゲーム依存から抜け出したいという動機づけを行ったり、認知行動療法により、なぜゲームをしてしまうのか、そのきっかけを探り、それを遠ざけるようにしたりします。さらにご家族への支援も行って、家族の関係改善などにも取り組んでいくことにより、依存の改善や家族の負担軽減を目指していきます。

またゲーム依存症には、ASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠字・多動性障害)などの発達障害が関係するとの指摘もあります。社会的コミュニケーションが苦手なASDは、顔を併せなくて済むゲームの世界ではコミュニケーションがとりやすく、またADHDでは強いこだわりを持つという特徴により、ゲームにのめり込みやすくなってしまいます。こうした疾患が見つかった場合は、その治療を行う必要があります。

→参考 発達障害

発達障害

発達障害とは、発達の度合いに偏りがあるもので、実は医学用語ではなく、いくつかの症例を指す大枠の名称です。主な発達障害の種類としては、ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)、ADHD(注意欠如多動性障害)、LD(学習障害)の3つがあります。近年、発達障害の児童は増加傾向にあり、100人あたり、およそ1名が該当すると言われています。

不登校やひきこもり、ゲーム依存などの背景を探っていくと、発達障害が誘因と考えられる場合があります。子供の成長や将来にとって、基本となる重要な問題をはらんでいますので、正しく理解し、適切な対応をとることで、学校生活、社会接活をよりスムーズに送っていけるようにしていくことが大切です。

発達障害の原因としては、現在様々な説がありますが、行動や思考、感情をコントロールする中枢である前頭前野が十分に発達していないことなどが考えられています。しかし脳は非常に複雑な器官であり、どの部位に、どんな問題があるとは、はっきりと解明されているものではありません。脳の疾患と考えるよりも、発達障害は個性や特性に近い問題とも言えますので、「障害」というよりは「違い」と捉え、対応していきます。

また発達障害では、それによって学校などでうまくいかなさことから、抑うつなどの精神症状が現れる場合もあります。こうした「二次障害」に対しては、薬物療法などの、精神科治療が必要になることもあります。

自閉症スペクトラム症について

自閉スペクトラム症(ASD)は発達障害のひとつで、これまで自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群それぞれの名称で呼ばれていたものを、本質はひとつの障害だととらえ、「自閉スペクトラム(連続体)」と呼ぶようになりました。

自閉症スペクトラム症には、以下のような特徴があります。

  • コミュニケーションが苦手
    場の空気を読んだり、相手の気持ちを理解するのが苦手なため、突然会話に割り込んでしまったり、相手の言葉を正しく理解し、自分の思いや考えをわかりやすく相手に伝えられないため、会話か成り立たなかったりと、コミュニケーションに問題を抱えてしまいます。
  • こだわりが強い
    特定のものに強いこだわりがあり、興味があるものを飽きずに見たり取り組んだりしたり、どんな時でも自分のルールに必ず従ったりという面があります。

よく見られる行動としては、人と目を合わせない、身振り手振りで伝えることが苦手、相手の言葉をおうむ返しにする、言語による指示が理解できない、などがあります。こどもの場合は、1歳過ぎくらいから、「人とあまり目を合わさない」「指さしをしない」「他の子どもに関心を持たない」などの兆候が見られます。

通常、対人関係に関連する行動は急速に伸びていくものですが、自閉スペクトラム症では、明確な伸びが見られないことが多く、言葉を話し始める時期が通常通りでも、自分の興味のあることだけを話し続けたり、それに何時間も熱中したりすることはあっても、他者との会話が成り立ちにくい傾向があります。

自閉症スペクトラム症のこどもは、いじめを受ける機会が多いことが分かっています。その結果、二次障害を引き起こす可能性もありますので、なるべく早期に見つけてあげて、専門の医師や市区町村などの窓口に相談し、適切な対応を行っていくことが大切です。

対応の基本は「療育」になります。療育とは少人数のグループをつくり、遊んだり作業したりすることで、集団でのルールを学び、併せてコミュニケーション能力を養っていきます。療育と同時に、こだわりの強さなどを、「個性」と捉えるようにするなど、周囲の理解を広げていくことが大切です。これらによって、対人関係などにおける不安が低減され、学校など集団活動への参加意欲が高めることができます。

薬物治療という観点では、自閉症スペクトラム障害そのものを治す薬はありません。しかし二次障害として、てんかん発作を起こす場合は「抗てんかん薬」を、パニックやうつ症状を起こしてしまう場合は「抗不安薬」を処方するなどし、こどもが生活しやすくなるよう、改善することがあります。

ADHD(注意欠如・多動性障害)について

こどもはもともと落ち着きがない部分がありますが、それが年齢不相応に非常に落ち着きのなさが目立つ場合、ADHD(注意欠如・多動性障害)の可能性があります。診断基準に関しては、「注意欠如」と「多動性・衝動性」について以下のような項目があり、それぞれ9項目の内、6項目が当てはまること、また「6か月以上持続しているか」「学業に悪影響を及ぼしているかどうか」が、主な診断基準となります。

注意欠如

多動性・衝動性

ADHDの原因も、脳の機能の偏りによって注意や行動のコントロールが難しくなっている状態と考えられ、親の育て方やしつけの問題とは関係ありません。しかしこうした特性を持つこどもは、学校生活で忘れ物が多かったり、ルールが守れなかったりということで、叱られたり注意されることが多く、また友達ともトラブルになりやすいことから、失敗体験が蓄積され、自尊心が低下し、不安障害やうつなどの二次障害を引き起こす危険もあります。

ADHDの場合も自閉症スペクトラム症と同様に、こどもが学校や家出の生活がしやすいよう、周囲が理解し、環境を整えていくことが重要です。たとえば翌日学校に持っていくものリストを作り、一緒に確認して忘れ物が無いようにしたり、授業中に気を取られるような刺激を受けにくい席に配置したりするなどが考えられます。

加えて、行動療法による行動変容の促進も実施していきます。これは、いけない行動をとった時に叱るのではなく、好ましい行動をとった時に褒めるというものです。たとえば、動き回ってしまうという多動性に対して、動き回ってしまった時はなるべく見逃してあげ、座った時に褒める、じっとしていた時間の長さをほめるというように、こどもに「成功体験」を積み重ねることで、自身がつき、好ましい行動が増えていくことが期待されます。

この他、人との交わり方や感情をコントロールする方法、学校生活の送り方など、周囲(社会)と関わっていくために必要なスキルをみにつけていくトレーニングを小グループや1対1で行う場合もあります。

さらにADHDでは、薬物療法を行うこともあります。これは脳機能の働きを改善し、特性によって現れる症状を軽減するものです。これにより行動療法やスキルを養うためのトレーニングをスムーズに行うこともできます。薬剤としては、3種類が認可されており、脳内のドパミンという神経伝達物質の働きを調整する働きがある「メチルフェニデート徐放錠(コンサータ)」、ノルアドレナリンという神経伝達物質の働きを調整する「アトモキセチン(ストラテラ)」「グアンファシン徐放錠(インチュニブ)」があります。

学習障害(LD)について

発達障害のひとつである学習障害は、限局性学習症(LD)とも言われます。「基本的には、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す」様々な障害のことと、文部科学省によって定義されています。

学習障害は、読み書きの能力や、計算する能力などの算数機能に関する、特異的な発達障害で、読字障害(ディスレクシア)、書字表出障害(ディスグラフィア)、算数障害(ディスカリキュリア)の3つに分類されます。

読字障害(ディスレクシア)

読字障害は、文字を読むことに困難を感じる人のことを指します。「文字とその文字が表す音とを一致させたり対応させたりすることが難しく、勝手な読み方をしてしまったり読み飛ばしたりすることが多い」、「音読することと意味を理解することが同時にできず、読み書きに時間がかかる」などの特性があります。

書字表出障害(ディスグラフィア)

書字表出障害は、文字を書くことが困難であるものです。文字が読めるが、うまく書けないということであれば、書字表出障害と診断されます。書字表出障害では、左右が反対になってしまったり、誤字脱字が多くみられたり、文字の大きさに均一性がなくノートの罫線に沿って書けなかったりしますが、自分自身には間違っていというる認識がありません。

算数障害(ディスカリキュリア)

算数障害は、数字・数式の扱いや単純計算が困難である学習障害です。一般的に言われる「算数が苦手」な状態ではなく、1・2・3といった基本的な数字や計算式の認識をすることも難しく、また数字を揃えて書くことも苦うまく行えない傾向にあるものです。

学習障害は通常、苦手分野以外の知的能力に問題はないため、就学前の乳幼児期には発見が難しく、小学校2年生以降(7~8歳)で気づかれる場合が多くなっています。場合によっては学習困難が発達障害によるものではなく、単なる苦手分野だと思われ、そのまま大人になっても気づかれないことも少なくありません。

こうした状態が気付かれないでいると、学校生活のなかで “生きづらさ”を感じ、抑うつで気分が落ち込こんだり、過度な不安感などが現れる不安症になったりと、二次的な障害につながってしまうこともあります。さらにひきこもりにつながるなど、将来的に社会生活に支障をきたす可能性もあります。学習障害も早期に見つけてあげて、対処していくことが大切です。

学習障害では、まず医師や心理士と面談し、心理的特徴や知的能力、発達の偏りなどをテストによって調べていきます。その際、学習障害がADHD(注意欠陥・多動症)や自閉症スペクトラム障害などの発達障害に起因するものではないか、調べていきます。学習障害では、これらを併発しているケースがしばしばみられます。さらに、読み書きや計算などのうち、どの分野の学習に障害があるのかを調べる、書字・読字・計算などの検査もおこないます。

このほか、学習障害の原因の可能性として、視覚や聴覚の異常。脳腫瘍など脳の病気でないかどうかの確認する、身体機能検査やCT、MRIといった画像検査を行う場合もあります。

学習障害を根本的な治療方法確立していません。そこで学校などの教育面や、生活面において環境調整を行ったり、合理的配慮を行ったりして、日々の困難さを軽減していくことが進められています。たとえばセンター試験では、読字障害の方が受験する際に、文字さえ読まなくて良いならば問題を解ける可能性があるため、障害の申請によって、別室で問題を読み上げる特殊な試験を受けることができます。このようなことが「合理的配慮」です。

また、様々な療育や、それぞれの障害の種類や程度にあわせたトレーニングを行うことで、症状を緩和していくことも可能です。保護者や学校、医療従事者等が連携して、それぞれのこどもにあったトレーニングを工夫していくことが重要です。できないことを責めず、楽しく勉強できる環境つくることで、社会に対応していくことも十分可能です。