睡眠障害には、代表的なものとして「不眠症」があります。他には夜眠っているにも関わらず、日中も強い眠気を生じる「過眠症」、昼夜のサイクルと体内のリズムが合わない「概日リズム睡眠障害」などがあります。また睡眠中の呼吸に異常を生じる「睡眠呼吸障害」や、「周期性四肢運動障害」「むずむず足症候群」なども睡眠障害と言えるでしょう。さらには高血圧や糖尿病などの様々な生活習慣病と関係した睡眠障害もあります。
日本では、1度でも「なかなか寝付けない」とか「途中で目が覚めてしまう」とか「熟睡した感じがしない」などの睡眠に関する問題を感じた人が、成人の約3割に達し、1割ほどが不眠症に罹っていると報告されています。
現代社会ではストレスを受ける場面も多く、社会は24時間動き続けています。深夜労働や不規則な勤務形態を余儀なくされる場合もあるでしょうし、ライフスタイルも夜型になりがちです。こうした様々な環境の要因もあり、睡眠障害は誰がなってもおかしくない状況と言えるでしょう。
一方、睡眠には個人差があります。7~8時間眠れていなかったとしても、日中に過度に眠気に襲われるなど、日常生活に支障をきたすことがなければ睡眠障害とはなりません。睡眠を起因として日常生活に支障が出てきてしまった場合は、睡眠障害となりますので、何らかの問題を感じた場合は、一度、ご受診ください。
不眠症について
不眠症は主に「入眠困難」「睡眠維持困難」「早朝覚醒」「熟眠障害」の4つのタイプに分けられます。不眠の症状により、原因となっていることが異なる場合があり、適切な対処法や治療法もそれぞれ異なります。また、複数のタイプが組み合わさった不眠症もあります。
- 入眠困難
不眠症の中でもよく見られるタイプで、床についても、なかなか寝付けない状態です。通常、30分~1時間、眠れないと不眠症が疑われますが、個人差がありますので、それだけで不眠症とは診断できません。基本的に日常生活に支障がなければ問題とはなりません。 - 中途覚醒
夜中に中途で目が覚めてしまう状態です。高齢者に多い症状とされ、他に就寝前の飲酒の影響も知られています。睡眠は深い眠りと浅い眠りを繰り返していますが、浅い眠りの際、極端に浅かったり、浅い時間が長いと覚醒してしまいます。 - 早朝覚醒
想定の起床時間より、2時間以上前に目が覚めてしまい、その後は眠れなくなってしまう症状です。これも高齢者に多い症状で、また、うつ病が原因の場合もあるので注意が必要です。こちらも様々な原因による睡眠の浅さが関係しているとみられています。 - 熟眠障害
中途で目が覚めることなく、一定時間は眠れているのですが、眠りが浅いことで、しっかり寝たという熟睡感が得られず、実際、日中にも眠気に襲われてしまう症状です。睡眠時無呼吸症候群やうつ病など、他の病気による影響の可能性も考える必要があります。
不眠の原因としては、「心理的要因」「生理的要因」「環境要因」「器質的な疾患」「精神疾患」など非常に多岐にわたり、これらが組み合わさって起こる場合も多く、他の疾病が影響している場合には、より専門的な治療が必要になることもあります。
心理的要因としては、様々な心配事や不安、翌日、人前で話さになければならないなどの緊張といったストレスが考えられます。また体に痛みや痒みがあったり、加齢による頻尿などの要因もあります。高血圧や糖尿病では交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、そりによって睡眠と覚醒のバランスも崩れることによって、不眠症が引き起こされる場合もあります。
この他、騒音や明るさ、熱さ、寒さなどの環境要因や、枕などの寝具があっていないことによる生理的要因、コーヒー等のカフェインやタバコの覚醒作用、ステロイド等の薬剤の影響によるもの、さらにはうつ病や神経症、統合失調症などの精神疾患を起因とするものもあります。
不眠症の治療では、まず要因が何かを調べる必要かあります。その上で、他の病気などの身体的原因や、うつ病などの精神的要因が考えられる場合は、その治療を行う必要があります。一方、日々の生活習慣の改善や、周辺環境を整えることで改善される不眠症もあります。当院では丁寧に問診等を行い、原因を探ったうえで患者様に輪わせて「睡眠衛生」に関するアドバイスをおこなっていきます。
睡眠衛生に関するアドバイス例
- 就寝時間と起床時間を一定にし、体内時間を乱さないようにする。
- 朝、太陽の光を浴びる。夜、スマホなどの強い光を浴びないようにする。
- 適度な運動をし、ほどよい肉体的疲労を得る。
- 寝る前にぬるめのお湯で半身浴をしたり、音楽を聴くなどリラックスタイムを設け、副交感神経を活発にする。
- 寝酒、特に深酒は早期覚醒につながるのでやめる。
- 寝具を自分に合ったものにし、ストレスを軽減する。
- 温度や湿度、光や音など、寝室の環境に気を付ける
- 好きな音楽の鑑賞や、読書、スポーツなど、趣味によって気分転換し、なるべくストレスを溜めない工夫をする。
- 睡眠時間にこだわらず、どうしても眠れないときは、一度寝床を出る。
不眠症の方の中には、不眠が続くと「また眠れないのでは」ということがストレスになって、さらに不眠になるという悪循環に陥っていることが少なくありません。睡眠時間にこだわらず、どうしても眠れないときは、一度ベッドを出て、違うことをしてしまったほうが、不眠症改善によい場合もあります。
こうした生活習慣、環境の改善でも効果がない場合は、他にうつ病などの疾病が隠れていないかなどを慎重に判断した上、睡眠薬による薬物治療を行います。最近ではラメルテオン(メラトニンの働きを助け体内時計を調節する)や、スボレキサント(脳の覚醒を司るオレキシンをブロックする)など、新しい薬も出てきています。従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬も副作用や依存性は起こりにくくなっていますが、さらに注意しつつ、必要であれば適切に使用していきます。
過眠症について
十分な睡眠時間をとっているにもかかわらず、日中、眠気が耐え難く、実際に眠ってしまう。といった症状が現れるのが過眠症です。通常、日中に眠くなってしまうことは誰しもあることです。しかしそれが、仕事や学校、家庭などに支障をきたしてしまうほどになった場合、過眠症である疑いがあります。
過眠症の原因としては大きく二つが挙げられています。ひとつは、脳における睡眠と覚醒をコントロールする機能に異常がある場合で、これを「中枢性過眠症」といいます。もうひとつは、睡眠の状況(質)や他の疾病の影響による場合で、これを「2次性過眠症」といいます。
中枢性過眠症の代表的なものとしてはナルコレプシーがあります。入学試験中や、顧客との商談中でも、突然眠り込んでしまうような睡眠発作が特徴です。これは覚醒を維持する神経に異常が生じることが原因とされ、遺伝的要因も考えられています。また2次性過眠症はアレルギーや睡眠時無呼吸症候群、うつ病等、他の疾病の影響や薬の副作用、夜勤などによる昼夜の逆転など、睡眠のリズムの乱れが原因となるものです。
過眠症は、その原因によって大きく治療法が異なります。不眠症同様、他の病気や薬剤の影響によるものは、その治療や影響の排除などの対処が必要になります。
過眠症の治療としては、ナルコレプシーなどの中枢性過眠症では、主に中枢神経刺激薬や、抗うつ薬の一種による薬物治療を行います。また、2次性過眠症の場合は、それぞれの原因に合わせた治療を行っていきます。場合によっては、呼吸器科や皮膚科など他の専門医療機関をご紹介する場合もあります。
加えて、日常の睡眠リズムや生活サイクルの乱れや、心身へのストレスが、過眠症の症状をさらに悪化させる可能性があるため、不眠症と同様、「睡眠衛生」に関する改善のアドバイスを行っていきます。症状に合わせ、休憩・仮眠や夜間睡眠の確保を計画的に行うことで、薬の効果を最大限に発揮させたり、薬の服用を減らしたりすることにつながります。