うつ病は気分障害と呼ばれる病気のひとつで、日本では100人に約6人の割合で、生涯の内にうつ病を経験しているという調査結果があります。女性の方が男性の1.6倍と多い傾向で、妊娠や出産、更年期などと関係があると考えられているうつ状態およびうつ病に注意する必要があります。
気分が憂うつになり、落ち込んだり、悲しくなったり、やる気が出なかったりすることは、誰にでもあることです。それが1日中続き、さらに2週間以上にわたって解消されない場合は、「うつ病」を疑います。そのままにしておくと、日常生活や社会生活に支障をきたすようになり、「死にたい」という希死念慮を持つようになる恐れもあります。
以下のような状態が長く続いている場合は、うつ病が疑われますので、ご相談ください。
- 悲しく、憂うつな気分や沈んだ気分になる
- 何事にも興味がわかず、楽しくない
- 気力、意欲、集中力が低下し、何をするにも億劫に感じる
- 人に会いたくなくなる
- 心配事が頭から離れず、考えが堂々めぐりする
- 失敗や悲しみ、失望から立ち直れない
- 自分を責め、自分には価値がないと感じる など
また、うつ病の場合、以下のような身体的な症状が見られる場合があります。
- 食欲がない
- 性欲がない
- なかなか寝付けない、あるいは寝すぎてしまう
- 体がだるく疲れやすい
- 頭痛や肩こりがある
- 胃の不快感や、便秘、下痢がある
- 動悸やめまいがする
- 口が乾く
うつ病の原因としては、何らかのきっかけにより強い心理的ストレスがかかることで、脳内の神経細胞に様々な変化が起こることによるものと考えられています。たとえば、神経伝達物質であるセロトニン(心を落ち着かせる)やドーパミン(活動性を高める)などの機能低下、またストレスに対処するために分泌されるグルココルチコイド(コルチゾール)というホルモンの長期発散による神経細胞への悪影響等が、自分に対して否定的な考えを持ってしまう「うつ病」の発症につながっていると考えられています。
こうしたストレスのきっかけとなるのが以下のような例です。
- 家族との死別など、耐えられないようなつらい出来事があった
- 家庭や仕事などの人間関係で強いストレスを受けた
- 転職や転勤、転校、引っ越しなどで、周辺環境が大きく変わった
- 昇進など、通常では喜ばしい出来事があった
- 定年退職や目標達成など、肩の荷を下ろすような出来事があった
ここに挙げたのは例であり、ストレスと感じることは様々で、きっかけに関してもさまざまです。なかには喜ばしい出来事であっても、「うつ病」を発症する可能性があるのです。
自分自身では「うつ病」と自覚の持てない方もいます。周囲の方が、「うつ病」のサインに気づいてあげることも大切になります。「うつ病」のサインとしては、以下のようなものがあります。
- 表情がくらい
- 自分を責める言葉を口にするようになった
- すぐに涙を見せるようになった
- こちらからの呼びかけに対する反応が鈍くなった
- そわそわして落ち着きがなくなった
- 飲酒の量が増えた
うつ病の治療として、まず重要なのが心身の「休養」をしっかりと取ることです。職場や学校から離れ(可能であれば休職や休学も考慮します)、ひとりでゆっくりと過ごせる時間をとります。場合によっては入院し、心身をストレスとなる要因から切り離すことで、症状が改善することもあります。同時に、可能な限り、ストレスとなる要因を遠ざけられるよう、会社であれば配置転換など、「環境調整」を行います。「休養」にしろ、「環境調整」にしろ、病気であることへの周囲の理解が必要です。
また、うつ病では薬による治療も有効です。ストレスなどによって神経系に生じてしまった以上に対して、適切な薬を適切に使用していくことで、症状の改善が望めます。使用する薬としては、脳のセロトニンの濃度を高める選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)や三環系抗うつ薬などがあります。症状が軽減され、日常生活に戻れることによって、さらに回復していくことが期待できます。
この他の治療法としては、認知行動療法があります。「現実をどう受け取っていくか」や「ものごとをどうとらえていくか」という「認知」と呼ばれる部分に働きかけを行い、自分の現在の現実の受け取り方やものごとの見方を変えていき、さらに行動も変化させていくことで、いま感じているストレスを軽減し、精神面を穏やかに落ち着かせていくことにより、症状を改善していくものです。薬物療法なども効果的に併用しながら治療を進めていきます。