不安障害の一種である強迫性障害では、自分の意思に反して、ある考えが頭の中に浮かんで払いのけられない状態を「強迫観念」、それによって繰り返してしまう行動を「強迫行為」と言います。たとえば、「外出した時に、カギをちゃんとかけたか、コンロの火は消したか」などの不安が「強迫観念」となり、何度も家に帰って確認してしまうという「脅迫行為」となって現れてしまうというものです。
通常、「鍵を閉めたかな」と心配になり、家に確認しに帰ったとしても、次から気をつけようと思い、それで終わるものです。しかし、強迫性障害の場合は、このようなことが何度も繰り返され、エスカレートすると家族や周囲に影響を与えたり、自分自身がうつ病へと進行してしまったりする危険性もあります。
強迫性障害の症状のパターンとしては、以下のようなものがあります。
- 不潔恐怖と洗浄
- 汚れや細菌などへの汚染を恐れて何度も執拗に手洗いや洗濯、入浴などを繰り返してしまう
- 加害恐怖
- 誰かに危害を加えたのではないか、車で轢いてしまったのではないかと心配になり、通って来た道を戻って確認したりする
- 確認行為
- 何度も何度も窓や玄関のカギ、ガス栓、電気器具のスイッチなどを確認するため、遠くからも帰ってきてしまう
- 儀式行為
- 自分の決めた回数や手順に沿って物事を行わないと不安になり、必ずそれに従って行動する
- 数字へのこだわり
- 不吉な数字、幸運な数字に極端にこだわってしまう
- 物の配置、対称性などへのこだわり
- 物の位置や左右対称性などにこだわりがあり、それからすこしで外れると気持ちが悪く、不安になったりイライラしたりする
強迫性障害の原因となる要因は、まだはっきりとはわかっていませんが、対人関係や仕事上のストレス、妊娠・出産などのライフイベントが発症のきっかけとなっている傾向がみられます。これらのストレス状況に加え、以下のような可能性の高い要因との相互作用によって、発症すると考えられています。
- 強迫性パーソナリティ
- 責任感が強く、几帳面で倹約家、頑固など、性格面で「強迫性格」の特徴があり、これらが何かをきっかけとして度が過ぎてしまうと、発症につながってしまう。
- 遺伝、あるいは家族性要因
- 若年(特に18歳未満)で発症した場合、遺伝要因の比重が高まるとみられています。しかし直接、強迫性障害の発症につながる遺伝子については、まだよくわかっていません。
- 感染症、神経精神疾患との関連性
- パーキンソン病やトウレット症候群など、ドパミン系機能異常を伴う神経精神疾患との関連性が考えられていますが、それらの感染が必ず強迫性障害の発症につながるわけではなく、今後の研究が待たれています。
強迫性障害の治療は、認知行動療法と薬物療法を組み合わせて行います。
認知行動療法の代表的なものとして、「曝露反応妨害法」かあります。これはあえて強迫観念による不安に直面し、やらずにはいられないことを我慢するものです。例えば、カギをかけて外出し、心配でも確認に戻らないように我慢する、などです。止めやすいと思われる症状から難易度をつけ、低いものから課題に取り組むなど、段階を付け、一歩一歩、反省したり、理解したり、修正したりしても自分をコントロールできるようにしていきます。
強迫性障害では、対象となる刺激(トリガー)に遭遇することで強迫観念が呼び起こされ、それを打ち消そうと強迫行為を繰り返すようになります。しかし、強迫行為をしても強迫観念が消えるほどの効果はなく、一時的な安心感を得られるにすぎません。その安心感は次第に薄れていくので、また強迫行為を繰り返すようになります。曝露反応妨害法はこの負の連鎖を断ち切るための治療法であり、大きな効果のあることが実証されています。
こうした認知療法を、薬物療法によってサポートすることで、効果的な治療を行っていきます。用いるのは主に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。強迫性障害にはセロトニンの働きも関わっていると考えられ、その働きを増強するSSRIの効果が期待できます。一般的には、まず薬物による治療を先行させ、症状を安定させるなど、環境を整えてから、認知行動療法を導入していきます。