こころの病気を知ろう③ -統合失調症-

本日のテーマ

本日は統合失調症についてご紹介します。

以前は「精神分裂病」という病名をつけられていましたが、その言葉の響きが精神疾患に対する理解を妨げてしまっていました。

医療関係者は病名告知をためらい、曖昧な説明にとどまることもあったといいます。

そうなっては明確な方針のもと治療を受けることができません。

そこで、当事者や家族を不利益から守るため、2002年に正式に「統合失調症」という名前に変更となりました。

この病名変更の動きは、日本の精神医療にとって大きなできごとだったのだと思います。

症状

統合失調症とは心や考えがまとまりづらくなる病気です。

主な症状として、健康なときにはなかった状態があらわれる陽性症状、健康なときにあったものが失われる陰性症状認知機能の障害の3つがあります。

陽性症状

幻覚(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚に関して現実にないものをあると感じる。特に多いのは幻聴)

妄想(現実にありえないことを信じ込む。「自分は総理大臣だ」「いつも監視されている」など)

自我の障害(自分と他人の境界がはっきりしなくなり、自分の行動や考えを支配されていると感じる)

思考の障害(考えが次から次にわいて、頭の中が混乱して考えがまとまらない)

行動の障害(急に激しく興奮して叫ぶ、同じ動作を繰り返す)

陰性症状

意欲の低下(何ごとにも億劫で面倒くさい、入浴や洗面など身だしなみを整えることにも無頓着になる)

感情の平板化(表情が変わらない、視線を合わせない、言葉の抑揚がなくなる)

集中力・持続力の低下(何かに手をつけても続けられない。同時に複数のことができない。疲れやすくなる)

ひきこもり(人との関わりを避け、引きこもりがちになる)

認知機能の障害

記憶力の低下(何をしようとしていたのか忘れる、ものごとを覚えるのに時間がかかる)

注意力の障害(物音や他の人の動きなど周囲の刺激にとらわれて集中できない)

実行機能の低下(何から手をつけてよいか分からない。優先順位がつけられない)

「病識がない」ということ

「病識」とは「自分は病気である」と自分自身で認識できることです。

統合失調症の患者様は、病識がない方が少なくありません。

なぜかというと、上記に挙げた症状はどれもご本人にとって本当に起きていることです。

誰かに話しかけられたとき、私たちはそれを「幻聴だ!」と思いませんよね。

「誰だろう?」と後ろを振り返ったり、キョロキョロと周りを確認したりすると思います。

それと同じで、幻聴が聞こえる方の耳には実際に声が聞こえています。

それを「その声は幻聴だから」とか「聞こえるはずがないものだから」と言われたって、いやいや聞こえているのに!となると思います。

仕方のないことですが、そうはいっても病識がないと治療どころか病院に行くことすら拒否されてしまいます。

ご本人が「自分は統合失調症という病気だ」と認識すること、「幻覚や妄想は症状によるものだ」と理解してもらうことが治療には不可欠です。

原因

まだ解明されていない部分も多いですが、統合失調症は脳神経の疾患といわれています。

統合失調症になりやすい要因をいくつかもっている人が過剰なストレスをきっかけに神経伝達物質のバランスが崩れると、情報がうまく伝わらなくなり発症するのではないかと考えられています。

この病気は100人に1人が発症するといわれています。思ったより多いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

男女差はなく、10代後半~30歳代の発症が多くなっています。

治療

統合失調症の治療は薬物療法心理社会的療法を組み合わせて進めていきます。

この2つは車の両輪のようにどちらも同じくらい大切です。

薬物治療

主に使われるお薬は、神経伝達物質の働きを調節する作用があります。これによって、陽性症状・陰性症状の改善を目指します。

その他に、上記のお薬の副作用を軽減するものや認知機能を改善するものをあわせて使う場合もあります。

お薬を飲む上でとても重要なのが、自己判断で中止したり減らしたりしないことです!!

お薬を飲むと症状が落ち着き、しばらく経つと「もう飲まなくても平気かな」という気持ちになるかもしれません。

患者様のお話をお聞きしていると、「毎日薬を飲む」ことは想像以上に煩わしくストレスなのだと感じます。

何錠も服用している場合はなおさらですよね。

薬をやめたい、減らしたいと思うのは当然の気持ちだと思います。

でも、急にやめたり減らしたりすると症状が悪化する危険が高いのです。

せっかく症状が落ち着き安定した生活を送っていた方が、お薬を飲まなくなったために症状が悪化して再入院する姿は、ご本人もご家族もとてもつらそうです。

お薬の調整は難しいことなので、専門の先生が行うべきです。

「やめたいな」と思ったときは、率直に主治医の先生に相談してみてください。

心理社会的療法

「心理社会的療法」という言葉は聞き馴染みがない方も多いかもしれません。

簡単にいうと、お薬以外の治療のことですが詳しくは改めてとりあげようと思います。

統合失調症の心理社会的療法として、

・心理教育

・生活技能訓練(SST)

・作業療法

・就労支援

などがあります。

どれも、自分の病気を受け入れて付き合いながら、自分らしい人生を歩むため方法を見つけることを目的としています。

生活スキルの回復を目指したりお仕事を見つけたりすることは、患者様が「自分の人生」をとり戻すためにとても大切で価値のある治療だと思っています。

さいごに

統合失調症は長い付き合いが必要な病気です。

治療の目標は「病気を完治させて以前の生活をとり戻す」というより、「病気と上手に付き合いながら新しい生き方を見つける」ことかもしれません。

統合失調症を患っている方の中には、仕事をしたり結婚して家庭をもったりしている人はたくさんいます。

「こんな生き方をしたいな」という希望をどうすれば叶えていけるか、

そのための「通院」や「服薬」が苦痛なものにならず、いかに継続していただけるか、

ということをご本人やご家族と一緒に考えることが私たち支援者の仕事だと思います。