大人の自閉スペクトラム

大人の自閉症

自閉症はもともと小児の概念として提唱されました。

コミュニケーションのために言語を使用することが難しかったり、人よりも物に対する関心が強かったりする子どもに対して「自閉症」とよばれるようになりました。

その後、診断名や診断基準、その中身は時代とともに少しずつ変化し、現在は「自閉スペクトラム症」の概念が使用されています。

そして、最近では成人の方が「発達障害ではないか」「自閉症ではないか」という理由で受診に至るケースが増えています。

診断と支援

大人の自閉スペクトラム症を診断する場合でも、子ども時代の情報を収集し、整理していきます。

そのとき、過去の成績や発達歴など客観的な情報だけでなく、本人の記憶や本人が認識している過去の体験についてもお聴きしていきます。

本人が過去の状態をどう捉え、苦手なことや苦痛なことがあったのかという体験を確認することは診断の上でも重要です。

乳幼児健診や学校で異常を指摘されたことがなかった場合でも、発達障害の特性が幼児期から存在していたと判断されるケースはめずらしくありません。

自閉スペクトラム症と診断された後は、支援方法を本人と一緒に考えていきます。

つまり、「診断」と「支援」はつながっているのです。

そして、この「支援」を考える上でも、本人が過去にどのような体験をしたのかという話が重要になってきます。

自閉症の人が大人になるまで

なぜ大人になるまで診断を受けることがなかったのでしょうか。

それは、自分をカモフラージュして生きている自閉スペクトラム症の人が多いからと言われています。

自分の好みを押し殺して「普通」の高校生の真似をし、「普通」の高校生らしい表情、話し方、ファッションや話題を意識してきた人が多いのです。

その結果、家族など身近に暮らしている人であっても本人の特性に気づくことが難しかったと考えられます。

子どもの頃から苦難や生きづらさを抱え、どうにか社会に適応しようとした結果ですが、同時に自己を偽る状態でもあるので、それを長期間続けてきたことで疲弊している人も少なくありません。

当事者にとって「診断」とは

大人になって診断されることについて、本人はどのように感じているのでしょうか。

海外の調査によると、多くの当事者が語ったのは「本当の自分ではないと感じていた」「いつも何かを演じていて疲れた」など過去の自己理解についての困惑と疲弊だったそうです。

そうした方々が診断を受けた後、「本当の自分になること」「自分の人生を再構築する」「自分に対して優しくなる」「安堵した」など、ポジティブな変化が生じたという報告もあったそうです。

自閉スペクトラム症と診断されることは、自分を見るための新たなレンズを得ることかもしれません。

そのレンズを通して過去を見つめることで、自分の行動や感じ方、生きづらさに対して説明がつきます。

それは、否定的に捉えていた自己を肯定的にとらえるきっかけになります。

自閉スペクトラム症は生来性の脳の特性で、その特性が少数派であるという認識をもってもらうことが診断の意味です。

特性はいくつかあるうちのひとつというだけなので、特性そのものを変える必要はないですし、変える方法もありません。

ただ、少数派であるために多数派にむけて構築された社会では行きづらさがあるため、不安や抑うつのような精神的な症状をもちやすくなります。

そのため、それらの症状の予防のためにも、特性に合った支援方法を私たちは一緒に考えていきたいと思います🌼