こころの病気を知ろう⑤-強迫性障害-

本日のテーマ

今回は「強迫性障害」についてです。

外出しようとして、「あれ?家の鍵をかけたかな?」と不安になったらどうしますか。

多くの人はドアノブをガチャッとして、「よし、かかってるな」と確認できると安心して出かけると思います。

では、もし確認しても不安がおさまらなかったとしたら、どうなるでしょう。

確認してもおさまらない不安

強迫性障害とはまさにその状態で、一度の確認で安心することができません。

何度も何度も確認しているのに安心できないので、10分、15分、30分と時間が経ってしまいます。

ときには遠いところまで出かけていても、確認のために家に戻ってくる場合もあります。

このように、自分でも分かっていながら特定の行為をせずにはいられない状態(強迫行為)、自分の意志に反して考えが頭に浮かび払いのけられない状態(強迫観念)のことを強迫性障害といいます。

症状としてあらわれるものは、鍵の確認に限らず様々なパターンがあります。

代表的なもの

不潔行為と洗浄

「汚れている」「感染するかもしれない」などの恐怖から、手洗いやシャワーを何度も繰り返す。手すりなど公共物に触れられなくなる。

加害恐怖

「誰かに危害を加えたかもしれない」と不安になり新聞やテレビの事件・事故を確認する。「車で人を轢いてしまったかもしれない」と、来た道を戻って確認したり運転をやめたりする。

確認行為

戸締まり、ガス栓、電気器具のスイッチを何度も確認する。

儀式行為

自分が決めた手順でものごとを行わなければ恐ろしいことが起きるという不安から、どんなときも必ず従う。

数字へのこだわり

ものの回数や数を数え、不吉な数字や幸運な数字に過度にこだわる。(縁起をかつぐというレベルを超えて)

物の配置・対称性などのこだわり

物の配置や左右対称にこだわり、必要がないものまで時間をかけて並べる。

受診の目安

代表的な症状をみて、どのように感じられたでしょうか。

「私も当てはまる」「普段からよくやってる」という方もいらっしゃるかもしれません。

強迫性障害は、鍵の確認や手洗いなど誰もが生活の中で行っていることの延長線上にあるので、治療が必要なレベルかどうか判断が難しい場合もあります。

目安として、以下の場合はぜひ医療機関にご相談ください。

〇日常生活に支障がでている

上で述べたように、確認行為では15分も30分も時間をとられる場合があります。

そうなると、仕事や約束の時間に遅刻してしまうといった問題が生じます。

また、加害恐怖のために外出することをやめてしまう場合もあります。

このように本来送りたい生活が強迫行為・観念のために送れない、支障が出ているという場合は治療が必要です。

〇家族や周囲の人が困っている

強迫性障害は、本人だけでなく周囲の方が苦しむこともあります。

例えば、不潔恐怖のある方は家族が雑に手を洗うことや外から帰った服を脱ぎ散らかしたりすることに耐えられません。

そのため、家族に対してイライラしたり、自分と同じようにすることを強要したりします。

その結果、人間関係がうまくいかなくなってしまいます。

このように家族や周囲の人が困っている場合も受診を検討してみてください。

原因

強迫性障害の原因は明確に解明されていません。

傾向として、対人関係や仕事のストレスや生活上の変化(妊娠・出産など)がきっかけとなりやすいです。

加えて、几帳面で頑固な性格傾向や、遺伝、神経精神疾患などの要因が相互的に作用して発症するといわれています。

治療

強迫性障害の治療は2本柱です。

①薬物治療

強迫性障害にはセロトニンの働きも関わっていると考えられており、抗うつ薬(SSRI)によってその働きを安定させます。

はじめは少量からスタートし、お薬との相性をみながら量を増やしていきます。

継続して飲み続けることが大切なので、副作用などでお困りの場合はすぐに主治医の先生に相談してくださいね。

②認知行動療法

中でも「曝露反応妨害法」という方法が効果的だといわれています。

”曝露”という言葉が使われている通り、強迫的な不安に立ち向かっていく行動療法です。

たとえば、普段汚いと感じて絶対に触らないものを実際に触ってみて、そのまま手を洗わずに我慢するというようなものです。

荒療治のように感じるかもしれませんが、実際は治療者と一緒に不安の小さなものから順番に少しずつ進めていきます。

強迫行為とは、それを行うことで一時的な安心感は得られますが、すぐに薄れてしまいます。

薄れた結果、また繰り返してしまうという負の連鎖につながります。

曝露反応妨害法はその連鎖を断ち切るための治療法です。

繰り返し行うことで不安は少しずつ小さくなっていき、いずれ強迫行為を行わずにすむ状態になると期待できます。

さいごに

強迫性障害をもつ方は、その行為や考えに対して不合理性や過剰性を認識しています。

この部分がこの疾患のつらいところだと思います。

自分でも無駄だと思っているのにやめられない…と感じながら長時間費やすことは、心身ともに疲弊します。

強迫性障害は、正しく治療することで改善が期待できます。

病気かどうかわからない…という段階であっても、おひとりで抱えずお気軽にご相談くださいね🌱